小説仕立てで書こうとしたけどどうにもならなかった2年くらい前の文章が出てきたから供養

「香菜子ちゃん、結婚するだろうって」

そう言って、母親は食器を洗いながら従姉妹について話し始めた。唐突に言われたので、思わず検索をかけていたスマホの手を止める。私が探しているフレアワンピースはトレンチコートのような形をしている紺色のワンピースで、どこで見たのかは全然覚えていない癖に形も色も完璧に覚えていて、似たようなものでいいから、と探しているのに全然見つからなかった。

母親の声は洗い物の音でときどき掻き消される。それでも聞き取れたことを繋ぎ合わせると、従姉妹の香菜子ちゃんが結婚に向けて彼氏を作ったりしていて、でもすぐ結婚する訳ではないらしくて、つまりとにかく結婚するという意志に沿って動いているとか、そういう感じの内容だった。

それを聞いて私はどういう反応をしたらよかったのかわからなかった。従姉妹と2歳しか違わない私には未だに彼氏がいないから。私はとりあえず「へーすごいね」と言った。本音だった。大学卒業と共に元彼と別れて、就職先ですぐ彼氏ができるって、すごいなぁ。私には全然ピンとこない。従姉妹の家は普通に家庭が円満だから、家族というものに対してのイメージがつきやすいのかな。そういえば、就職して結婚して子供が生まれたら親に子育てを手伝って貰う、私は死んでも寿退社なんてしない、と香菜子ちゃんが言っていたっけ。明確に目標を持っているなら就職してまぁ適齢期近いし結婚に向けて動いてることは別に全然不思議じゃないんだけど。

 


フレアスカートの検索をやめて、今度はブーティーの検索を始める。ブーティー、黒、10センチヒール。


私には結婚がよくわからない。加えて言うなら恋愛だってよくわからない。

香菜子ちゃんと私だったら絶対に私の方がかわいい。昔からそう言われていたし、私もそう思う。でも彼氏ができるのは決まって愛嬌のある香菜子ちゃんだった。そういう世の理を理解したのは女子高を卒業して、大学に入ってからだった。大学に入学した当初は、無条件に誰にでも彼氏というのはできるものなんだと思っていた。でも、違った。もし私の顔が佐々木希ほど可愛くても、多分、愛嬌とコミュ力は必要だ。私にはそれらが足りなかった。壊滅的に。大学に入ってからは、友達や男性との会話の中で起こる小さな齟齬に苦しんだ。その齟齬は私だけが気づいているのか、相手も気づいているのかわからなくて、コンプレックスが酷くなった。一般的でないと小学校の頃から言われていたから、どこまでが一般的で、どこからが逸脱しているのかを見極めることに注力した。腐女子であることを使って逃げたりもした。彼氏が死ぬほど欲しくて足搔いたりもした。それらを経て漸く、人生はなるようにしかならないし、今己に足りてないのは恋愛ではなく自立する環境である、あと恋愛で飯は食えない、という根本的なところに戻ってきた。それが良いか悪いかなんて関係ない。私の人生は私のものだ。うるせぇほっとけ。

「私、香菜子ちゃんの結婚式行かなきゃいけないっけ?再来年だったら無理かも。国家試験の勉強あるから」

「従姉妹は行かなくてもいいんじゃない?それより私は旦那をどうするか考えないと」

「そっかぁ。まぁ、なんでもいいや」

もし出席することになっても、着るものとか、マナーとか、まぁなんでもいいや。適当にやるし。実際、なんとかなると思う。今までなんとかやってきたので。私は適当に生きて参りますので。でももう1人の家族はなんともならないから、母親はすぐにその別居中の父親のことで頭を抱えだす。

「お姉ちゃんの家は、もしあんたが結婚することになっても、こんなこと考えなくていいのにねぇ」

 


てゆかもうその時点で円満ではない家庭で育った私からしたらコンプ極めてるよね。しんどい。

じゃあ私が従姉妹と入れ替わりたいかって言われたら全然そうは思わない。私の両親は子供みたいな人だしこの歳になって私の方が圧倒的に精神年齢が上になってしまって色々見えて嫌な時もいっぱいあるけど、でもその私を作るきっかけ、本とか、環境とか、を与えてくれたのは両親だったし、その辺はめちゃくちゃ感謝してるんだよね。でも私の家は円満な家庭ではなかった。それだけなんだよね。

なのに母親に「普通の家庭を見せれなくて。それが絶対に娘が恋愛できないことの理由の1つになってる。申し訳ないと思う」って言われた。

お前がそれを言ってどうするんだよって思って泣いた。